人生100年時代のスキル向上を考える

京都情報大学院大学
柏原秀明

  • はじめに

人生100年時代といわれる昨今である.企業で働く人たちの定年が70歳になりつつある.20歳前後の知識・知恵を携えて働き始め,定年まで約50年間活動するには,当初の知識・知恵と経験だけでは持続的に付加価値の維持・向上は明らかに困難である.このような状況から経済産業省では“リスキリング教育(Reskilling Education)”による付加価値維持・向上を啓蒙している.ここでは,このリスキリング教育の紹介とその実現方法を中心に述べる.

  • リスキリング教育とは

リスキリング教育とは,“新しい職業に就くために,あるいは,今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために,必要なスキルを獲得する/させること”であり“近年では,特にデジタル化(DX: Digital Transformation)と同時に生まれる新しい職業や,仕事の進め方が大幅に変わるであろう職業につくためのスキル習得を指すことが増えている”といっている.また,”リスキリングは単なる「学び直し」ではない.リスキリングは「これからも職業で価値創出し続けるために」「必要なスキル」を学ぶという点が強調される”といっている.このことは,内閣府が先導するSociety5.0“サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより,経済発展と社会的課題の解決を両立する,人間中心の社会”に対応している[1],[2].

  • 日本の豊富な人財の活用

 日本の人口の内訳は,1478万人(15歳以下),7450万人(15歳~65歳),1754万人65~74歳),1867万人(75歳以上)である(2022年現在).リスキリング教育を実践するためには,受講生と指導者が必要である.例えば,指導者候補である人財は,各年代でそれぞれ0.5%および1%と仮定すると37.25万人(40歳~65歳),17万人(65歳~74歳),総計54.25万人になる.これらの人財は,様々な分野で活躍し経験豊かな40歳以上の指導者を想定している.この指導者は,デジタル変革のもとデジタル技術の知識・経験があり,ビジネスに対応した経営・サービス・技術・生産・教育などの経験に基づく能力を保持している人たちの活用が望ましい.

  • 人口減少と将来変革への対応

日本の人口は,江戸時代には約3100~3300万人で推移していたといわれている.現在の日本の人口は,1億2570万人(2021年現在)である.また,2050年には9515万人になると予想されている[3].

人口減少社会になることで日本の経済力が低下すると危惧されているが,はたして本当に危惧されるほどのことか疑問である.戦後,我が国が経済成長を遂げてきた国富の累積を反映すれば,危惧には当たらない.

将来変革(経済,教育,技術,社会,金融,文化,医療など)を先取りするには,“リスキリング教育”のような啓蒙・実践をとうしてひとり一人の人財の知識・知恵・経験とその能力の飛躍的な向上を図ることが重要であろう.また,“リスキリング教育”に加えて次世代を担う子供たちへの幼児期からの自然環境を含めた様々体験・経験ができる機会を提供する“発見・気づき・自ら考える教育”の一層の充実で将来変革への対応が期待される.

  • おわりに

人口減少時代に突入するから“移民”を受け入れるという安易な対策は,避けるべきである.アジア・EU・米国などを見れば,政治・宗教・文化・教育・言語・風習・価値観・モラールなどの異なる人たちとの共住・共生は良い面もあるが,様々な軋轢が生じているのも事実である.たとえ,我が国が江戸時代の人口になっても“リスキリング教育”や“発見・気づき・自ら考える教育”を持続的に強化すれば“一層豊かで安全・安心”できる我が国の未来が約束されるはずである.

出所:参考文献[2]

・参考文献

[1] 経済産業省,“リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―”
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/pdf/002_02_02.pdf

[2] 内閣府,“Society 5.0とは”
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/

[3] 内閣府,“第1節 日本の人口の変化”
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2004/pdf_h/pdf/g1010100.pdf

京都情報大学院大学 柏原秀明
Hideaki KASHIHARA <kasihara@mbox.kyoto-inet.or.jp>

(記事は2023年2月12日現在の内容です。)