教員・学生間のジェネレーションギャップ

大阪経済法科大学 経営学部
岡村 俊一郎

 現在、勤務している大学は、私が教員になって初めて在籍することになった大学ですが、そこで演習などを担当することになり、世代間のギャップ、つまり「ジェネレーションギャップ」というものを感じ、そして、その影響が教育の場に大きく横たわっていることを感じます。おそらく、かつての大学教育でもこれは存在したのかと思われるのですが、実際に教育の現場に立つとそれを身に沁みて実感します。今回、その体験とそれに対して思ったことを綴ってみようと思います。

 私は、現在、43歳になります。生まれた年は昭和54年です。学生達は、18~22歳であるので、昭和生まれというのは、自分の両親や祖父母になります。その人たちから教えを受ける訳ですが、社会科学の世界で困るのは、「実感がない」ことです。

 まず、阪神・淡路大震災は生まれる前です。東日本大震災も伝聞でしかしりません。ですので、アメリカの9・11と聞いてもピンとこない。このような自然・社会現象も知らない訳ですから、エンロン・ワールドコムショックやリーマンショック、サブプライムローンなどの経済現象についても知らないわけです。

 これの何が苦労するかというと、まず、大震災について実感がないですので、ハザードマップや防災グッズなどを「何故」買っておかないといけないかを知らない。

 そして、「何故」、日本の大学の講義(多くの日本の学者が書いた教科書で)でアメリカの経済の金融化が批判されるかが分からない。

 例えば、我々世代の多くの日本の経営学者は、成果主義・職能給を導入することを嫌がります。しかしながら、今の20代前後の学生は、その批判する理由が分からないのです。なぜなら、先ほど述べたように、2000~2010年代に起きた経済現象を知らない、もっといえば実感していないからです。私たち世代が、共有の認識として持っていた「強欲なアメリカの資本主義とその破綻」という現象を知らず、そして、彼らが知っているのは、アメリカの金融政策や経済政策に振り回され活力を失い続けている日本経済の姿です。そのような彼らに対し、「日本企業のやり方は良いものだ」、「今は手取りの給料は低いかもしれないが将来は安定する」と言っても、彼らは、日本企業が好調な姿、あるいは、将来的にも安定している姿を生まれてから見たことがないのです。

 ただ、ある意味、そのような彼らは、我々のように1980年代やバブル景気のような「過去の栄光や亡霊」にとらわれることなく日本経済を冷静に見つめているのかもしれません。私も着任して当初は、就職活動をしている学生に対して年功序列制などの利点を強調していましたが、ある時、学生から「そんなことよりも働いたら働いた分だけの給料が欲しい。安い給料を我慢してて、その会社がつぶれたら意味ないですよね。」と言われ、気付かされました。

 このように我々と学生の間には大きなジェネレーションギャップがあり、それはよく学生のものの知らなさを揶揄する際に用いられますが、彼らの意識や認識は、彼らが生きてきた期間の実感をベースにしています。そのように考えると、彼らの意識や発言を単に「今の若い奴は…」で片づける訳にはいかないのではないでしょうか。大学生の我々とは意識が違う発言に対しても、少し足を止めて考えてみる必要があるかもしれません。

 

(Z世代の講義風景(写真は本文と直接関係ありません)) 

文: 大阪経済法科大学 経営学部 准教授
岡村 俊一郎

 

(記事は2022年11月29日現在の内容です。)