失われた30年とトヨタ生産方式
テクノバ株式会社
代表取締役 弘中泰雅
本文は先の福岡の西南大学における全国大会で発表したものを焼き直ししたものです。関西からの参加者は少なかったように感じましたので書かせていただきました。表題に掲げたトヨタ生産方式については日本の生産における無駄取りの代表的なものとして象徴的に用いたもので、トヨタ生産方式のみを失われた30年と対比したものではないことはお断りしておきます。
下図は工業統計をもとに日本の製造業の主要な指標について作成したものです。日本中のムダとりの効果によって2007年からのリーマンショックによる落ち込みを除いて、付加価値額/人いわゆる生産性は多少の上下はあるものの向上していきました。特にバブルが崩壊した91年には多少の落ち込みがありますが、2005年頃までの生産性の向上には目を見張るものがあります。バブル崩壊までの5年間は製品出荷額も急速に伸びていきましたが、その後は波打ちしながらもやや停滞気味です。付加価値額は製品出荷額と相似的に推移しながらも明らかに減少しています。原材料使用額は製品出荷額と相似的に推移してますが無駄取りを行いながらも逆に増加気味です。ところが従事者数は約2/3迄激減しています。したがって製品出荷額が増えない中で原材料使用額は増加気味でありながら、従事者数が激減してる現象を見れば無駄取とは人の削減であるとしか言えないようにも思います。
生産性の伸びによって給与/人も増加しましたが2000年頃には頭打ちになりその後はやや低下気味です。ここにきて慌てて給与の増額を日本中で大騒ぎをしているようですが、現金給与総額は1991年頃をピークに減少しています。これは1991年頃から製造業従事者が激減したことによるものです。現金給与総額は製造業従事者のみの給与総額額ですが、工業国日本の製造業従事者数はそれなりの比率であるので現金給与総額の減少は国民の購買力低下の一因と言えなくもないと思いますし、これが長年にわたるデフレを引き起こしたと言えなくもないでしょう。ここ2,3年前には企業の余剰資金が話題になりましたが、これは従業員に支払うべき賃金がため込まれたことによるといっても差し支えないかもしれません。余剰資金という払うべきものの出し惜しみがデフレの原因なのではないでしょうか。
確かに付加価値額は91年頃まで急速に増加していますが、同時期は急速な円高で原材料が安く購入できたはずですし、実際企業物価指数も低下しています。案外この頃の急速な生産性の上昇はこれら円高等の影響によるものだった可能性があります。にも拘らず日本の多くの企業は人の削減というコストダウンだけに注力し、新規の起業を促がさず、多くの人を斬り即ち多くの低所得者を生み出すことで国内購買力を低下させ、これが失われた30年を生み出したといっても過言ではないのかもしれません。
生産管理学会にはトヨタ生産方式の信奉者がかなりおられると思いますが、初期の効果はあったと思いますし、日本経済にとって必要なものであったでしょうが、その後の功罪について考えてみる時期が来ているのかも仕入れません。
図 最近の日本の製造業の指数推移 (工業統計から作成)