「Winning the Right Game ~DX成功の要件~」
私の専門分野はDigital Transformationで2017年からこのテーマに取り組み、何度か生産管理学会でも口頭発表させてもらっています。
ようやく日本でもこの取り組みの重要性に気づき、いろいろなセミナーやソリューションが提案されていますが、共通して認識されていることは、日本がデジタル化への取り組みに対して、大きく出遅れているということです。
その理由として、経営者の意識の低さや、効率化にしかIT・デジタル活用を思いつくことができないなど様々指摘されていますが、最近Winning the Right Game*という本を読んでいて気づいたことがあります。
この本のポイントは、誤解を恐れずに簡潔にいうと、デジタル化時代に入って、競争に打ち勝つには優れたエコシステムを構築する必要があるということです
MIT Sloanが2019年に発刊したDXの教科書 Designed for Digitalでは、顧客への新しい価値提案は一社のみで提供できるものではなく、External Developer Platformを構築して、パートナーとともに築く必要があるとされていますし、日本DX銘柄でグランプリとなったKomatsuのSmart Constructionも一社のみの取り組みではなく、エコシステムの取り組みになっています。
DXの取り組みは両利きの経営でなければならないということがようやく認識されつつあります。このうち既存事業の延命のためのIT・デジタル活用はこれまでの取り組みの延長なので、容易に取り組めているのですが、困っているのが、デジタルを活用した新たなビジネスの創造です。
どうしてもこれまでの取り組みの延長でしか発想できず、良いビジネス案が出てこず、皆困っているのが現状です。その最も大きな理由として、自社単独あるいは自社が中心となってビジネスを考案しようとしていることにあるのではないかと気づいた次第です。
DXの目的は、新たな顧客経験を提供することにあり、そのためには徹底した顧客起点での発想が求められます。しかし、自社起点の考えが根底にあると、真の顧客起点の発想ができません。
そうではなく、新たな顧客経験をデザインし、その実現のために必要なプレイヤーを考え、その中で自社のポジショニングを考えるようにする、すなわちエコシステムベースで考えると、新ビジネス案が出てこないという現状を打破できるのではないでしょうか?
まだ考察の途中ですが、整理できましたら、学会で発表させて頂こうと思います。
武庫川女子大学経営学部教授
Kyotoビジネスデザインラボ合同会社 代表社員
宗平 順己
※Winning the Right Game: How to Disrupt, Defend, and Deliver in a Changing World (Management on the Cutting Edge), Ron Adner, The MIT Press, 2021.10.5
(文: 宗平順巳(Toshimi Munehira/ <t-munehira@nifty.com>)
(記事は2022年5月23日現在の内容です。)